日野町の南端、日南町に接する菅福地区上菅(かみすげ)には、第七代孝霊天皇にまつわる伝承が残されています。天皇御一家は当時この一帯を荒らし回っていた牛鬼退治のため、伯耆路を御幸行になりました。溝口町(現伯耆町)宮原の楽々福神社に陣を構えて、鬼住山の鬼を退治され、二部を越え黒坂を過ぎ、当地に辿り着かれた時、皇后の細姫命(くわしひめのみこと)が産気付かれ、日野川の大岩を産処として皇女福姫命を出産されました。その場所は現在の「乗越橋」のすぐ下流あたり。そこに菅がたくさん茂っていたところから、この辺りを上菅〜菅福と呼ぶようになったとか。その後小高い山に「皇宮大明神」という名の社を建立され、福姫養育の御所として十三年間過ごされたとのこと。この社は後々、日本に二つだけの「皇宮神社」の一社となり永く大切に祀られてきましたが、明治以降は「高宮神社」と改名され、さらに時代が下って周辺の神社と合祀されて、現在は「菅福神社」となっています。その経緯は菅福神社の社伝で明らかにされています。
孝霊天皇がお住まいになっていたところ、つまり「都の郷」であったことから、この地域は「都郷(つごう)」の名がつけられ、それが転じて「都合」〜「都合山」や「都合谷」の地名が現存しています。都合谷川に沿って、鳥取県指定史跡である「都合山たたら跡」に至る道は、昭和30年頃までは備中へと向かう「陰陽」を結ぶ主要街道として使われていました。しかしその後は交通事情も変わり、歩く人もいなくなり、道は草木に覆われた荒れ果てた状態になっていましたが、そこに再び光を当てて再開への取り組みをされたのが、地元の団体「里山元気塾」です。その立役者であった小谷博徳さんの手記『どん底からの挑戦』に、その経緯が書かれていますので、以下原文のままご紹介します。
この街道筋には、野鈩の跡が散在しています。川口から2.5km上流に大きなたたら跡があり、子供の頃にはよく遊びに行っていました。昭和四〇年代に入ってから、炭焼きやシイタケ栽培をする人もいなくなり、この街道は熊笹、や立木が生えて人を寄せ付けない道と化していました。
平成一七年、私は集落の人を説き、たたら街道の整備に着手しました。五十年間人が入っていない街道は、八ある橋が全て落橋し、大変な作業でしたが、山仕事はプロ級の村人は黙々と作業を続け、三年後に、たたらをつなぐ往時の道幅で陰陽を結ぶ備中街道が復活したのです。
平成二十年、島根県の学芸員、角田徳幸氏が私を訪ねてこられ、都合谷たたらを発掘調査したいとの申し入れでありました。
誰も知らないこの鈩は、すごい鈩であることが判明しました。それは、まだ伯備線が開通していない明治三十二年に、東京帝国大学(現東京大学)の俵国一博士が調査研究をして、学会で発表されている鈩で、その調査の詳細が「日本古代製鉄法」の学術誌に取り上げてあると言うのです。角田学芸員は、自分の調査と明治に調査された俵博士の整合性を確認するための発掘調査でした。
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米子市出身の作家、桜庭一樹が書き下ろした小説『赤朽葉家の伝説』が平成十八年の芥川賞にノミネートされましたが、惜しくも受賞を逃し、ミステリー賞を受賞されました。この作品について驚く出来事が起きたのです。
平成二十年十二月も迫ったころ、産経新聞大阪本社編集局文化部、筏栗恵子記者が私のところを訪ね、「小説のルーツを訪ねるシリーズで『赤朽葉家の伝説』を取り上げたい。この小説の舞台は鳥取県日野町の近藤家のたたらが舞台ではないかと、仮説ではあるが読み取った。ついては、都合山たたらを見に行き写真を撮りたい」という依頼で、現地に案内をしました。違った視点からも都合山たたらは脚光を浴びたことも付け加えておきます。
振り返ってみますと、そういう過去の歴史や学問的価値を、予見する人や役所も全く無のなかで、平成十七年に村人に呼びかけ、限りなく明治に作られた往時に近いたたら街道、二、五kmに及ぶ玉鋼を運んだ道を再現したことです。その道づくりの取り組みは、全く知らない無知から、素晴らしい文化財、まさに産業遺産へとたどり着くという、金の卵への挑戦であったと言えるでしょう。
永きに亘り、地元の鳥取県立日野産業高校で教鞭をとられ、その間には「八岐大蛇」の演目で知られる荒神神楽を部活に導入、同校の郷土芸能部を全国一に育て上げられたり、農業を通じた社会教育の仕組みを構築されたり、また退職後は日野町議会議員〜議長職を務め、まちづくり団体「里山元気塾」を主宰されるなど、「挑戦」の二文字満載の人生を過ごしてこられました。たくさんのエピソードがこの『どん底からの挑戦』に認められていますので、ぜひご購読ください。
ご自宅の古い蔵を改装して作られた「小さな蔵美術館」には絵画や写真など地元作家の作品などが入れ替えで展示され、2階には小谷家に伝わる貴重な掛け軸その他のお宝が展示されています。都合山をお訪ねの際は、ぜひこちらにもお立ち寄りください。