た行(た〜と)


駄(だ)

●荷物の単位。割鉄や地鉄は1駄が27貫(約101kg)。湧荷は明治初年、銑27貫、鋼24貫(12貫入二箱)、明治中期から銑30貫、鉧30貫。砂鉄30貫。■伯州日野郡ばかりは小口取りの小鉄は納升2斗4升を一駄とし、川小鉄は30目を一駄とする。駄賃は30貫目を一駄。■大炭20貫一駄。※明治時代に1貫は3.75kgとして定められた。

 

大工

●大鍛冶本場の長。■左下鉄に鉧を少し加えて熱して炭素量を減らした錬鉄塊を、金床の上で四人の手子に打たせて鉄滓を搾り出し、約横5寸、縦一尺、厚さ2寸の形にし、縦に切断して二個にする。これを左下の手で元の火窪で熱し更に各二個に切り四片とする。これをまた熱して鎚で延すこと四回にして小割・丸延とする。この工程を一工程(ひと吹)として約一時間を要する。■大工は日に二人扶持、月に塩・味噌一升宛与える。

 

退身・欠落・缺落

●抱子が成捨、借入金、喰負などの負債を残したまま密かに逃亡すること。他領で、また鉄山勤めすることが多いが追捕人を差向けられる。■天保12(1841)年、「鉄山人別出入熟談済口議定」によると作州と伯州の鉄山で、相互に逃込んだ抱子計24人を互に差し帰す協定がなされている。相互引渡し合意書を「馴合一札」とも言う。■缺落人の気配があれば忍番をつける。知らぬふりをしているときは向三軒両隣にその借金を払わせる。

 

足水(たしみず)

●鉄穴流しの際、新たに入れる水のこと。清水井手とも言う。走り水は濁っているので、精洗場近くに別の水源から澄んだ水を引入れる。

 

たたら

●鑪・鈩・高殿・鞴鑪・蹈鞴・蹈鞴多々良・踏鞴・鑪鞴。●6世紀に始まったとされる日本古来・独特の製鉄法のこと。●たたらという言葉は元来「鞴(ふいご)」を意味する言葉とも言われる。また製鉄を伝えた「タタール」に由来するとも言われる。●漢字で鑪と書いてたたらと読ませ、以後、蹈鞴で鉄を吹くことから鉄を製錬する炉のこと、炉全体を収める高殿のこと、さらには製鉄工場全体や産業全体をもたたらと言うようになった。■日本書紀に事代主命(ことしろぬしのみこと)の姫で、神武(じんむ)天皇の后になる「媛蹈鞴五十鈴姫命(ひめたたらいすずのひめのみこと)」の名前が出て来る。日南町・福榮神社の祭神の1柱でもある。

 

 

多々良入道

●鉄を千夜(代)吹けば、蹈鞴(たたら)入道と云う妖物が出て来て、鉄山の人を殺害すると云うことの往古よりの言習わし。

 

鑪打込

●たたらを新設すること。■蹈鞴造り立ては、湿りが少なく、水懸りも必要のため、小高い土地で谷ばたがよい。深山で木山に近く、駄賃下直、小鉄取場と村里に近く、米が沢山あり、牛馬も多く、元釜土も採れる所がよい。■たたら打立ては、人夫三百人役なら上々吉。難工事となると千人役数知れず。■明治21年、日野町大西山(近藤家鉄山)打込見積では、地形新田師50人、水揚小鉄場づくり70人、床釣には捨尾師其他100人、山内諸建物建築大工236人、日用50人の他に床焼夫60人、天秤吹子造り大工120人、合計680人役を見込み、さらに建築材焼灰木4万貫、鑪押道具、狸皮47枚、銑千駄用の砂鉄など総合計1300円の経費を計上している。この他に、大炭、小炭焼きの経費が加算される。

 

鑪仕懸

●掃除をして上釜をつぎ、中をさらえ捨て棹炭を立て、釜にうず高く炭をくべておいて鞴(ふいご)を仕掛ける。この日を仕懸の日と申す。

 

鑪の種類

1)四つ鞴蹈鞴(ふきたたら)/大炭2200貫目位にて一夜(代)押有。片方(側面)に後鞴と前鞴吹子二名据えて計四名で吹く。

2)一人蹈(ふみ)天秤蹈鞴/大炭2400貫目位、片方一人ずつ踏む(これは四つ鞴に同じものなり)。

3)二つ鞴蹈鞴/大炭2300貫目にて、側面に一名ずつ吹差吹子を据える(天秤の仕掛と同じ)。

4)四人蹈(ふみ)天秤/大炭4000貫目余(片方二人ずつ蹈む)。

5)八つ鞴(ふき)/大炭4000貫位。

6)五つ鞴(ふき)/大炭3000貫位。

7)一人半蹈(ふみ)天秤蹈鞴/大炭3000貫位。

 

鑪操業(手順)

●籠り/操業初期。こもり小鉄は、釜の空虚な所へ入れて銑を吹涌かすので最初が大切。山口小鉄に適したものがなければ、川小鉄を洗って用いる。

上り・登り/操業中期

下り・降り/操業後期

 

駄賃

●駄馬による運賃。運送賃。これが後で転じて子供への報酬、お駄賃となった。■炭・木・土の駄賃は36町1里に付き30貫目一駄40文。米なら一升宛。山坂は増あり。

 

棚買

●鑪場へ運び着けての買付価格。砂鉄の置き場は川口(採取した川の近く)、中場(増水しても流出しない場所)とあるが、棚場とは山内の砂鉄置き場。

 

狸皮

●天秤、吹差吹子に用いる弁の材料。空気の洩れぬように狸皮を張る。■明治21年日野町(近藤家)大西山鑪打込み見積には年間47枚、一枚35銭で購入予定。明治30年全鉄山の年間買入れ予定は一枚35銭で155枚。■鞴の狸皮のかけ直しは釜塗日。■山狸は腹皮に毛がないので安くても損となる。初秋より寒中に取れるものがよい。播州の皮毛、山陽道の狸がよい。皮は薄くてしなやかなものがよい。鍛冶屋鞴子二挺に狸皮8枚。

 

たね 

●爐に投入する砂鉄。籠りでは30分ごとに大炭、たねを交互に投入。

 

玉鋼

●「鉧押し(けらおし)」によって直接製錬された鋼のうち、良質なものに対して付けられた明治期以降の呼称。最上質の鋼として日本刀の製作には欠かせない物とされている。■元来はこぶし大の良質の鋼のことであったが、後には鋼の総称となる。■呉造船所は1箇300g以上のものを要求。


地売 

近藤家大阪出店が割鉄を道中売でなく、地元である大阪・京都あたりに売り捌くときの言い方。

 

千木・ちき

●重さを測るはかり。32貫目がけ1挺、70匁がけ銀秤1挺、分銅をそろえた天秤1挺、味噌用500匁がけ人棹必要。

 

千草鋼

●爐より引出した鉧を自然冷却させて鋼を取り出したもので「火鋼」とも言う。出羽鋼と品質は変わらないが、需要者の好みで火と水にわける。

 

地蔵(ぢぐら)

●村々に置かれた貢納米の収納庫。鉄山の養米は、願米、はね米として地蔵からも払い出される。

 

地物師

●鉄床や、鎚地生産鍛冶師は常置ではなく注文数がまとまった時、開設し、地物師を雇い入れる。


鎚地(つちぢ)

品質の落ちる地鉄が溜まったときつくる。重さは2貫500匁より5貫目位。地鉄からの歩留まりは5歩。

 

堤(つつみ)

●鉄穴流しの用水を蓄える溜池。■水の不自由なる鉄穴は、井手の頭に堤を築き、水溜池を据えて、夜の間に流れ捨たる水をたたえて置く。■底は粘土で固め、排水は土樋の上下にある蜂の子(栓)の抜き差しで調節する。底を固めることをはがねとも言う。

 

つぶり・頭

●吹子と気呂の間にある風のたまり場。

 

漬(つけ)

●破産。鉄山運営資金繰りがつかず、鑪生産を放棄する。職人への貸付金回収が不能となり、また山の生木も多く伐り残し、村方よりの納入物資代金も未払となるので全資産を失うことになる。

 

強吹き

●砂鉄投入量を多くすること。低燐銑鉄(近藤家鉄山) ■塩基性の鉱滓を熔銑の上に溜めて、上部より滴下する熔銑をこの鉱滓で濾過させ、若干の脱燐をさせる。熔銑はなるべく長時間炉底に築溜して品質を均等とさせる。出銑は砂型に鋳込む。明治41年、初めて製品を市場に出す。大正3年、従来の鋼押のたたらを全部低燐銑鉄の製造に変更する。


出浮

●出向くこと。

 

手馬・手馬制度

●鉄山の諸荷物運送専用馬。●馬子は鉄山師より馬の購入代金を借り、仕業日は日当の6割が手取、4割は借入金に当てる。■一鉄山数匹から30匹位まで。冬の飼料は鉄山持ち。

 

手子

●大鍛冶で大きな鎚で焼鉄を連打する者4人。右手子・左手子がいた。■鎚の重さは1貫400匁位(天保年間は1貫800匁)。就労日は通常月15日。■常に高い手間賃を求めて退身者が多かった。■替り番のときは前鞴が勤める。

 

手代

●事務系職員。■明治期近藤家では、根雨本店10名内外、大阪出店10名内外。各鉄山本小屋詰は合計50人位(一鉄山に5〜6人)。内、鉄山支配人、帳方、外勤、大鍛冶詰其他の役割がつけてあった。

■鉄山手代の仕事は、砂鉄、炭、米などの受取、早朝山内見回り、夕食後帳付場での翌日の仕事の打合せ、夜分5日ごとに出荷用割鉄掛け改めと包立、それに鑪場細鉄拾い、山内住人への米、塩噌貸付、月に一度は山配と共に釜回りなど。

 

鉄買船

●全国各地から鉄を求めて集まって来る船。化政期江戸回鉄時代でも残鉄は米子鉄問屋に集荷、鉄買船に売渡した。

 

鉄座

●安永9(1780)年、幕府は大阪に鉄座をつくり全国鉄市場を直轄とした。天明7(1787)年廃止。

 

鉄山

●鑪・大鍛冶・山内諸小屋など製鉄に関するすべての施設を含む言い方。鉄山林を指す時もある。

 

鉄山稼議定

●鉄山師と村方間の協定。■内容は山内遣い水、村方から炭・焼木・笹・茅などの納入単価、村方人別日雇賃、高殿建築労働力の合力、生産米買取、下ごえ引取、抱子の墓・茶園の場所、山・川狩禁止、なりそ(植物の果実)取り禁止、手馬使用と飼料場、抱子と村方人別の交際禁止、残漕捨場、越し炭(他鉄山への搬出炭)の有無、駄賃、道橋つけ場など。

 

鉄山相場・山相場

●賃金の支払い相場。山内抱子への仕業賃支払は、一般通用金銀銭より安い相場でなされた。また願米・はね米を納升で受取り、抱子へは古升で渡し、直段は鉄山相場で売った。■理由は抱子多数に多額の金を無利子で貸していると共に、退身者などの貸銀が回収出来ないためとしている。

 

鉄山林・鉄山所

●大炭・小炭を生産し、焼木など樵る山。場書には鑪・大鍛冶設置、鉄穴流しも条件に入れることがある。契約には次回の鑪建築用として栗など一定本数伐り残す条件を入れることが多い。■明治15年「大近藤鉄山林箇所記」では郡内184箇所。■今?郡内に200ヶ所余りで、内、鑪の設置出来る鉄山林は80〜90ヶ所。

 

鉄山舟

●日野川対岸への渡し舟は、鉄山が利用するとき改造費など負担したので、鉄山舟と呼ぶこともあった。

 

鉄山融通会所→「さ行」境鉄山融通会所を参照

 

手山

●自己の経営する鉄山。

 

天秤吹子

●鞴の一種。左右両側で空気を圧送、番子が両脚で左右交番で踏む。

 

天秤風器 

●二百年余り前に(安来市伯太)家島氏発明、二人宛交番に六人掛り。


道中売

●近藤家には大阪出店に、大阪から江戸までの東海道筋、其他の街道に沿う仲買商を回って鉄を売捌く外商担当者がいた。店の周辺での販売は「地売」。

 

徳人

●徳のある人。資産家。

 

特殊銑(低燐銑鉄)

●明治43年、日野町菅福山(近藤家鉄山)は、初代立灰6番、釜9尺・3尺3寸・指図7寸3歩、木呂19本で特殊銑をつくった。

 

床釣(とこつり)

●鑪打込・本床。炉の下に設けた除湿のための構造。

 

床役料

●建物、敷地の使用料。

 

友吟味

●関係者全員で身改める。

 

トロンプ

●近藤家で鑪合理買いのため、番子にかわる水を利用した送風器。明治24年頃全鉄山に備え付けたが、風に湿気がこもるため、次第に水力によるビストン式吹子にかわる。

 

どんぶり(丼)

●風呂のこと。■沸かすには、炭焚が熱い鉱滓を入れ、片付けるのは番子の役目。最初入浴するのは本古屋手代。女房は七代立まで入浴禁止、以後は朝方わかす二度目の温かくなった風呂に入る。■釜塗の火は(鉱滓がないので)炭の元、雑木の炭で据風呂を沸かし、どんぶりはたてない。

 

どんど

●鉄穴流しの走りにある滝と滝つぼ。■走りに滝があって、流れ落ちる谷の長いのを吉とする。砂石が滝に打たれて細かに砕けるが故。