たたら操業の手順


たたら製鉄の流れ(概略)

●多くの人手を必要とし、それぞれの工程は分業や協業で成り立ち、日本古来のマニュファクチャーとも言える。 

●特にたたら操業は、村下の経験と技術力に左右され、そのノウハウは一子相伝とされ、門外不出であった。

●1回の操業を「一代(ひとよ)」と言い、操業は村下の指示に従って行われた。

●鉧押し法(三日押し)と銑押し法(四日押し)がある。 

●一代に使う砂鉄と木炭はそれぞれ14〜15トン。

●上手くいく場合、3トン前後の鉧ができた

●多い場合、一つのたたら場で、年間に80回以上操業することもあった。


知識と経験が問われた、たたらの技術責任者、村下

たたらの科学的原理などが理解されていない昔、村下はノロの出方や炎の色、ホド穴から見える炉内の色などを元に状況を把握し、三日三晩にわたって砂鉄や炭の装入や、鞴からの送風の加減などを細かく指示した。

「一に粉鉄(砂鉄)、二に 木山、三に元釜土」と言われるように「築炉」はたたら操業の成否、鉄の良否を決めるおおきなポイントで、釜づくりと土の選定は、村下の知識と経験にゆだねられ、そのノウハウは一子相伝とされ、門外不出であった。


鉧押し法(三日押し)

真砂砂鉄を主原料として山陰側で稼働した方法。砂鉄からいきなり鋼を作る直接製鉄法で、三日三晩を掛けることから「三日押し」とも言われた。炉を侵食しながら丸三日かけて育った鉧を、四日目の朝に取り出した。鉧には鋼以外

に、銑や製錬がまだ不完全な歩鉧、鉄さいなどが混じっている。


銑押し法(四日押し)

銑鉄をとることを目的とし、溶けやすい赤目砂鉄を使用する。鉧の成長が目的ではないため、炉に掛かる負荷が軽くなるので、鉧押よりやや長めの4日間の操業が可能となる。

銑鉄は炭素含有量が高く、硬いが衝撃を与えると割れやすいといった性質で、用途は主に製鋼と鋳物。製鋼とは炭素の含有量を下げる処理(脱炭)を施して鋼とすること。



「鉧押し法」操業の手順(築炉)

1  炉床打ち締め(下灰作業)

炉を構築する場所に薪を積みあげて燃やし、その後、長い木の棒(床締め)で繰り返し叩き締めて、カーボンベットをつくる。


2  元釜づくり

炉の一番下の部分が元釜。操業中、高温で侵食されながら溶媒剤として働き、化学反応を生じてノロ(鉄滓)を生成・排出しながら鉧を育てるという大事な役割を担う。元釜をつくる釜土の良否が操業の成否に大きく影響するため、その選定は村下に託された。

周囲には20cm角の粘土を積み上げ、「かまがい」という木製の道具で余分な粘土を削りとる。左右の壁にはノロ(鉄滓)を出すための3 つの湯路穴が、側面には等間隔に釘を打ちつけた道具「ほど配り」 で20個の穴の印をつけ、細長い木製の棒「ういざし」を一気にさしこみ「ほど穴」を開け、次に「木呂さし」を用いて鉄木呂がはいる大きさに「ほど穴」を広げる。

 


3  中釜づくり

中釜には「2割粘土」と称する粘土分の少ない土を使う。休憩なしで7時間、中釜までつくっ たところで一晩、乾燥させる。


4  上釜づくり

翌日、上釜を築き上げ、「土ほうき」で泥状の粘土を壁に塗って築炉が完了。その後、送風のための木呂管などをとりつけ、操業の準備が完了する。



操業の流れ

1 籠もり期

まず溶けやすくて燃えやすい籠り砂鉄を投入し、次に木炭を投入して燃焼させ、砂鉄中に含まれる不純物を熔融してノロを排出させる。ノロの発熱反応は炉内の保温を良くし、その出方は村下が操業の状況判断をする目安となる。

 ◆ノロは「鉱滓」、地元では「カナクソ」とも言われ、土地の造成などにも利用され、奥日野では至るところで見ることができる。

 

2 籠り次ぎ期

さらに炉の温度を上げると、ノロだけでなくズク(銑鉄)もできてくる。

砂鉄と炭を交互に投入

 


3  上り期

真砂砂鉄の配合を少しずつ増していくと、鉧種ができ、炉内の燃焼状態がより活発になり、炎は 高くあがって山吹色になる。炉内では鉧が成長しながら次第に炉の壁 を侵食していく。

炉の壁が次第に痩せてくる。

4  下り期

さらに真砂砂鉄の装入量を増して、ケラを大きく成長させる。その結果、炉壁は痩せ細って操業に耐えられなくなる。そこで終了。

 

5  鉧出し

最後に炉を壊して、大きく育った鉧を取り出す。



実際の操業/タイムテーブル

明治31年(1898年)8月、俵国一が調査した日南町阿毘縁の砥波たたらでの操業記録は次のとおり。

 

操業2日前の夜中に、前の操業でできた鉧を外に出したあと、朝から炉床の打ち締めをして炉の位置を決め、炉の最下部・元釜と中釜を構築し、炉の内外で割木を燃やして乾燥作業を行う。

 

操業前日は上釜をつくり、元釜に木呂竹などを配置して製鉄炉を完成させる。

 

操業1日目、5時に火入れをして送風を開始。火勢が強くなったところで「籠り小鉄」と木炭を入れて、ここから5時間程度が「こもり期」。銑鉄とノロ(鉄滓)を湯路穴から出す。

 

次の5時間程度、「こもりつぎ期」を経て2日目にかけて「のぼり期」。その頃から炉内に「鉧」が生じ始める。

 

2日目の10時頃から「下り小鉄」の装入が始まり、これから炉内反応が徐々に盛んになり、砂鉄をどんどん装入して1日をかけて鉧を大きくしていく。銑鉄も多量に出てくる。

操業3日目の10時頃から徐々に、砂鉄と木炭の装入量を減らし、4日目の真夜中に装入を終了。釜出し(鉧出し)作業となる。

 

この時の砂鉄と木炭の量、出来高

使用した砂鉄の総量/12.825トン

使用した木炭の総量/13.5トン

 

生産された鉄

 炉外に抽出された銑/0.8トン

 炉内にできた鉧/2.8トン

  鋼、銑、歩鉧などをあわせて合計/3.6トン

 

出典◆角田徳幸著『たたらの実像をさぐる』