あ行(あ〜お)


合持(あいもち) 

●鉄山林や鉄穴場の諸権利などを共同所有すること。特に奥日野に多い。所有歩合は、押立柱四本を基準とすることが多い。

 

商符牒(あきないふちょう) 

●商内取引の秘密を守るために各商家ごとに定められた記号。■ちなみに根雨の近藤家では数字を「ヲトヒスタウコヨシカ(12345678910)」として記号化し記帳した。

 

上げ(掲)願書

●鉄山稼業を打切る(終了する)際の申請書。打込み(新設)のときは請願書。■(内容は)何々鉄山、木山?済には、何時引上仕舞仕候。

 

赤目(あこめ)

●褐色を呈し、磁鉄鉱の中に褐鉄鉱、または赤鉄鉱を混えている砂鉄。日野川の右岸に産出し、多里・石見・福栄村が最も豊富。銑鉄を生産するのに適している。●備中の国では、赤土の中より流し取る粉鉄(小鉄)あり、あこめ鉄と申し、性合能き粉鉄なり。伯州も、のぼり押(↓たたら操業)に是を用いる也。

 

当物(あてもの)

●借入金の抵当物件。

 

跡稼(あとかせぎ)

●たたら生産に一区切りつけた鉄山師の生産手段を譲り受けて、その跡(後)を別の鉄山師が経営すること。抱子(従業員)も一緒に譲り受けることが多い。

 

後ぶき(後吹)

●大鍛冶に二挺設置されている吹差吹子の後方のを操作する職人。

 

歩行日雇(あるきひやとい)

●本小屋から、諸職場や諸職人へ連絡をする係。

 


出羽鋼(いずははがね)

●水入刃金 ?を??より引出して、鉄池で急冷させた鋼。出羽は石見国邑智郡、国元では邑智?鉄と呼ぶ。

 

板鉄 

●小割鉄の打立では四枚とする作業を三枚とする。製品の長さ一尺五〜六寸、幅四〜五寸、一束に八〜九枚となる。

 

異鉄 

●幕末からの輸入鉄。西洋鉄、洋鉄とも言う。その当初は門扉・長持・箪笥・櫃などの金物には異鉄が使用され始め、和鉄(たたら製鉄)は刃物・船釘などに限定され始めた。※「たたら」では手間をかけて調達する砂鉄と木炭を用いるのに対して、鉄鉱石と石炭(コークス)を用いるためコストがかからず低価格で、やがて和鉄を駆逐した。

 

井手(いで) 

●鉄穴流し用の通水路。井手幅を狭く、深くすると雪の支えがないが、さらに雪害を防ぐため、蓋をして土で覆う。山の頂上での通水は水が減り易い。

 

犬飼い

●元治元(1864)年、新庄田浪山鍛冶屋の村議定には「山内に犬飼致させ間敷」と条項がある。「鉄山畜犬忌み嫌うこと」として金屋子神に絡わる説話がある。

 

印鑑

●国境番所通過のときは、身元を保証する文書の印鑑の照合を必要とする。

 

印賀鋼(いんがはがね)

●初めは、建長年間(鎌倉時代1249〜1256年)、印賀の阿太上(あたあげ)で古都文次郎の手で製錬した鋼。

■印賀鋼の性強き所と言うは、色ぎらぎらと白く、目合しまりて堅く、目細かに塩目なるを上とす。この商標は、青砥・手嶋・近藤家と引き継がれる。

 


魚切 

●山林の渓谷で、魚が遡上できない程、急傾斜の峡谷。

 

請願書

●江戸時代、鉄山稼(開業)をするための申請書。

■何山誰持分木山買受?するが、村中同心、近村障りはないとして、大庄屋・山奉行・宗旨庄屋へ各一通提出。

 

内林 

●個人持・村中惣持の山林。樹木伐採のときは郡奉行の聞届必要。

 

空地 

●採草地にもならない荒地。

 

打てる

●鉄穴場(かんなば)で山口を掘削中、不慮に崩れて来た土砂に埋まること。毎年数人の死傷者が出たが、村根帳を持つ流し子(鉄穴師)のときは藩と在の役人で検視した。

 

宇戸・打戸

●鉄穴場で山の掘り崩し口。鉄穴口・山口。洞。

 

馬銀 

●鉄山専用馬としての手馬制度では、馬の買入代金数両を予め鉄山師より借入れて、日当の六〜七割を手取りとし、後は借用金返済にあてた。

 

浦伏 

●船が難破したときの状況書。■天保十三年正月、播州沖沈船被害109束など。

 

裏銑 

●炉の下部に付着した銑。

 

売場書・売羽書 

●山林生木売買のときの取り替し書。伐採期間、代銀と支払方法、たたら打込み、大鍛冶設置、鉄穴流しなどの条件を入れることがある。

 

運上銀 

●藩に納める営業税。鉄山林は年間銀60匁。たたらは銀120匁。鉄穴流しは規模による。

■吹子一挺は銀30匁。二ふきたたらは銀60匁。鍛冶屋は銀60匁。四吹たたらは銀60匁。宝暦6(1756)年には、たたら一箇所が銀150匁。大鍛冶一軒60匁。文化四年には鉄山方御運上銀総計7貫562匁5分8厘。

 


駅馬 

●諸荷物継立運送。溝口・二部・根雨・板井原・黒坂宿に本馬・軽尻が合計60匹内外配置された。●従来は鉄荷も駅馬を使ったが元文5(1740)年、大阪への登り荷を除き、鉄山師の手馬使用が許された。

 


大鍛冶 

●小割鉄の精錬場。二間に三間位(3.6〜5.4mくらい)の一屋の土庭に大ふいごを据付け、火窪(ほくぼ)を設けて鉄床を据置き、傍に水槽を構え、火窪で地鉄を熱して鍛錬する。●鶏明(午前二時頃)に起きて本仕事、仕業は六吹。●天保期の頃、仕業は10吹、但し8吹まで本算用で、9〜10吹分は月末増として支給。●仕業は八吹。

●大鍛冶は普通、一鉄山に二軒。二軒で使用する地鉄は一日160貫、小炭は250貫、割鉄の生産は100貫。近藤家で最多は一鉄山に四軒。●一鉄山に延釼鍛冶屋一軒、小割鍛冶屋一軒也。

 

大鍛冶屋の種類

1)本鍛冶屋/歩(歩鉄)や銑(銑鉄)を地鉄とする小割鉄生産。

2)地物鍛冶屋/鉄(金)床の生産(25〜30貫目)。鉄池や山内の拾い鉄も原料に入れる。品質の悪い鉄が溜ったとき造る。

3)出鍛冶屋/たたらの場所と関係なく、小炭生産が多く見込まれる山に直接設置。

4)渡し鍛冶屋/抱子以外の鍛冶師に委託。

5)延釼鍛冶屋/?の中の鋼を鍛える。

 

大鍛冶錬鉄行程

一工程(ひと吹)約一時間の作業順序

1)焼鉄を鉄床で打堅め、二つに切る(たたき・胴切)。

2)再焼して二個を二つ宛に切り離し、四個とする(二番切)。

3)三焼してこの四個を長さ一尺八寸〜二尺一寸、幅二寸二分、厚さ四分の長角状の鉄をつくる(たたき回し)。

4)四焼し、長さの半分を、平の真中から縦に厚みの三分の一、溝状に割れ目をつける(はしくい)。

5)五焼して、残り半分に溝をつける(みてのはな)。

6)加熱あるとき、小炭粉に埋め、鉄色をよくする(むす)。

7)取出して水を注ぎ冷やす(ひやす)。

8)磨縄に鉄皮粉をつけて磨く(みがく)。

9) 厚さの四分の一残る鉄片を鎚で割り八本とする(わる)。

以上の工程を一日六回(六吹)行うのが通例。

 

大鍛冶職人への手当

●六吹は本役、七吹目は賃銭払い、八吹目以上は直ちに賃銭払い。●明治期も本役以上の吹数には直ちに賃銭を支払ったので、毎日小額貨幣の用意が必要であった。

 

大鍛冶手子頭

●翌日の働き手の手配。短日の日は火口替のため手火(明かり)用意。後ぶきが欠けるときは休番の手子を手配。かけおち人監視。手子休番の日でも朝吹と二吹目に胴切りまでは仕事をさせる。手子へは年間12日以上の休日は与えぬなど。

 

大鍛冶屋普請(建設)場所

●水掛り自由なところ、床に水湿ないところ、深い谷傍か長流水のあたりで残槽捨場のあるところを選ぶ。

 

大鍛冶役者(務め人)

●大工一人。前ふき指一人、この役を近年「左下」と言い習わす。後ふき指一人、吹子の操作のみする。手子四人(右振鎚二人、左二人)。七人の他に大工・前吹の欠間を勤める者一人、手子二人で計10人。これらの職人は山配の指図を受ける。

 

大阪蔵屋敷

●鳥取藩の物資収納蔵が大阪中ノ島につくられ、昭和初年まで建物があった。

 

大張り

●山の頂上からの稜線。

 

大庄屋

●請免施行後、貢納を主たる任務とする。その他郡内一切の勘定、人事、用材割当、人夫課当、農民の請願伺い、公事訴訟などを扱った。●日野郡内の構(支配区域))は時代により二〜四構にわかれるが、天保以降は下黒坂以南が奥構、北は口構となる。●安政五年より霞・二部に郡役所が置かれ、自宅では執務せず出勤制度となる。

 

大舟

●爐(炉)の真下にある本床を乾燥させる施設。

 

大炭

●爐の砂鉄を熔解還元させるために用いる炭で、炭化不十分なものがよいとされる。●30年位に生長した濶葉樹を伐採し、土窯で薫焼する。ひと窯に生木4500貫位入れ、炭は約二割得られる。山子は1ヶ月1000貫内外焼く。炭窯は集材上1カ年に二回場所をかえる。■大炭に適しない木は、しで・こぶし・桜・椎・栃・適するのは松・栗・槙・深山ではぶな。

 

大どう場・どう打小屋 ※「どう」は金偏に胴

●槽上部に約300貫の楔状の大鉄塊(どう)を縄で止め、下に鉧塊を置いて落下させて碎く装置。●破片が散り危険のため独立した建物をつくる。●どうを梢に釣るしておき、重鉄に落し当てて割る(はね木折)。※どうは水力(水車)か人力で、約10メートルも持ち上げた。

 

押え

●予定していた下限の価値を下回る入札のとき売却を断ること。広島官鉄放出のときよく用いる言葉。

 

御立山・御建山・水立山

●領内藩管理の山林。防風林・水源涵養などの保安林的性格もある。成木に従って地元民、鉄山への払い下げもなされた。

 

落鉄

●指定の寸法・恰好に合わぬ割鉄。渡し鍛冶の仕出し落鉄は一割引の価格で引取られた。

 

押立柱(おしたて、おったて)

●高殿(鑪)建築四隅の主要柱四本。●鉄穴場、鉄山林などの諸権利は、この四(本)を全体として合持計算をすることが多い。例えば押立一本は二割五歩。●押立柱の脇柱は宇立柱、宇立柱の内、仲押立は中央の柱。

 

落場

●鉄穴流しの精選場から流出した砂鉄を、下流の川までに池をつくり、さらに採取する場。

 

御手山

元禄七(1694)年11月13日より、日野郡内鉄山総てを鳥取藩の直接経営とした時の鉄山の呼び方。廃止は元禄11年8月。※日野のたたらを藩直営にしようとしたが上手くいかなかった。

 

乙庭

●山内に準備していた最後の鉄荷。

 

おなり・宇成女

●鑪の炊事婦。●月水なき小女か姥を用いる。うなりとも言う。

 

おなり松

●日南町佐木谷にある地名。おなりであったお松が鉄の湧きをよくしようとして鑪に身を投じたという言い伝えがある(霞神社宮司談)。

 

折地

●鉧の中の鋼でも刃物原料として良質のもの。鉧は大どう場で五寸立方位の不定形の鋼塊とするが、この鉄塊は空気に触れた部分が黒色に酸化し、且つ性質が不純のため、この外皮を手鎚で打落し仕上げたもので、この内品質優良なものを折地と称し、下等のものを上?と称する。

 

折鋼

●鋼造り職人が、割った鉧の中から鋼を取出し品質ごとに仕分けたもの。

 

おろし吹 

●左下鉄をつくる火久保(火窪)に吹子で風を送ること。

 

隠地

●陽の多くあたらない北向の山。